名古屋古地図<防災マップ>

防災マップ

防災マップを貼り出して不動産業界を相手に『名古屋の土地の歴史』を講演する北見昌朗
(2014年3月4日 南山大学同窓生が集う Nanzan Next Network勉強会より)

教訓正しく伝えよ 名古屋大減災連携研究センター・隈本邦彦客員教授
2011年10月3日 中日新聞

2010年度版の世界の地震発生分布図。赤い点が震源。日本は分布の点に隠れ、列島が見えないほど。世界ではM9以上の地震も頻繁に発生している=東京大地震研究所の資料から

世界でマグニチュード(M)4以上の地震が起きた震源分布図を見ると、どの先進国の首都も分布上にはない。日本だけは分布の点に隠され、列島の形が見えないぐらい(地図参照)。M9規模の地震は過去50年間に5回。決まって、この分布上で起きた。東日本大震災も「想定外」だったとは言えない。

岩手県釜石市は明治と昭和の大津波で壊滅した街で、再び津波が来たら流されることは想定済みだった。東北地方のリアス式海岸では、いざとなったら多くの家屋敷が流れると想定するのが、われわれに課せられた本当の教訓。津波で流された場所にコンビニを再建したことを称賛する報道があったが、本当の教訓が忘れられる危険性を感じる。

明治三陸大津波の時、津波は岩手県より宮城県の方が小さかった。今回の津波も同じく「北高南低」だったのに、(岩手県最南部の)陸前高田市より南で全体の78%が亡くなり、犠牲者は「南高北低」だった。津波がすごかったから人が死ぬんじゃない。津波の想定と本当の津波との差が激しかったからだ。

被災者に寄り添わない、むち打つような報道かもしれないが、メディアはこの大きな教訓を伝えないといけない。災害後に素晴らしい記事を書いても犠牲者は帰らない。災害前にこそ書くべきだ。

教訓を学び、事態に備える人が生き残れる。日本人にとって一時間目の授業は阪神大震災、2時間目が東日本大震災だ。東日本の地震のエネルギーは阪神の400倍だったが、実は東日本の死者、行方不明者、負傷者の総数は阪神の半分しかない。家屋被害数は同じぐらい。人口が多い地域で地震が起きたら被害は何倍にもなる。東海、東南海、南海地震で被害が大きくなるかを決めるのは社会の意識だ。

阪神大震災では、犠牲者の8割は倒壊した建物や家具の下敷きとなり、発生から15分以内に亡くなった。「自衛隊への出動要請の遅れ」や「災害時医療の不備」が死者が多かった原因ではない。

年齢別の死者を見ると、古くて耐震性の低い家に住んでいた高齢者や、安いアパートなどに住む20代前半の学生、会社員が多い(グラフ参照)。震度7の揺れに耐えられる新耐震基準で建てられた1981年以降の家は13%しか壊れなかった。「耐震性の高い住宅に住むこと」が阪神の最大でシンプルな教訓だが、小さく報道されただけ。まだ全国の住宅で20%が耐震化を完了していない。

亡くなった人には取材できない。その声はわれわれが想像しなきゃいけない。きっと「壊れない家にしてください」と言うだろう。生き残った人の話だけでは本当の教訓にたどりつけない。仮設住宅の建設費は1戸300万円だが、耐震補強工事の費用は約110万円。半額は補助金でまかなえる。次の災害が起こる前に、55万円を国民に支出してもらうための報道が必要。家族の携帯電話料金2年分で死なずに済む。被害が出る前に伝えることが報道の仕事だ。

http://www.chunichi.co.jp/article/earthquake/sonae/20111003/CK2011100302000088.html

名古屋大学減災連携研究センター客員教授・隈本邦彦(左)と北見昌朗

名古屋大学減災連携研究センター客員教授・隈本邦彦氏(左)と北見昌朗